強者弱者(138)

盂蘭盆

 十一、十二日草市。夏の夜の興楽多かるうちに、草市ばかり情趣深きはなかる可し。苧殻、蓮の葉、溝萩など盂蘭盆の供物に、秋の七草など添へたるが月の光にうつりて露あり。カンテラの灯にはえて色あり。
 十五日盂蘭盆。十六日藪入り。閻魔賽日、籠の小鳥のあくる日を待ちわびて、心もそらにかけり行く姿いぢらし。晴れてはいはがねの大地をも熔さん夏の日におめず、臆せず西より東より集ひ寄る浅草公園の雑沓、活動写真と氷屋との繁昌知る可きなり。

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草市は、7月12日の夜から13日朝にかけて盂蘭盆(うらぼん)に供える草花などを売る市。

「苧殻」は「おがら」。「あさがら」とも言い、お盆の迎え火や送り火に焚くもの。
「溝萩」(みぞはぎ)は、本来は「みそはぎ」と称すべきもので、漢字では「禊萩」とも書きます。お盆の頃に咲く紅紫色の花。

「盂蘭盆」は梵語だそうです。所謂お盆は正月と並ぶ国民的行事で、外に出て働いている人も家に帰ります。藪入りは、盂蘭盆に合わせて主家が奉公人に与える休暇のこと。

「賽日」(さいじつ)の「賽」は、神仏へのお礼参りのこと。

「いはがね」(いわがね)は漢字では「岩根」と書き、「岩のねもと」の意味。

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